「働きながら通信制大学で教員免許を取る」
この言葉から連想されるのは、仕事の合間にコツコツ勉強する姿でしょうか。しかし、現実はそんなに甘いものではありません。実際に4年間をかけて高等学校教諭一種免許状を取得した(既卒であったり、いくつか数科目単位を利用できた状況であっても4年かかってしまいました)私の経験から言えば、それは「高度な事務処理能力」と「容赦ない論理的思考力」を同時に求められる、極めてハードな知力戦でした。今回は私の至らなさや私の学んだ通信制大学での話なので、もちろん例外もあり得ますが、仕事と教職の両立はかなりハードなのではと思います。
通信制大学の卒業率がなぜ低いのか。そこには、募集要項には書かれていない「2つの巨大な壁」が存在します。
目次
孤独な「事務処理」というプロジェクト管理
通信制大学において、学生は単なる「生徒」ではありません。自分自身の学習進捗を管理し、大学側と交渉し、外部との調整を行う「プロジェクトマネージャー」である必要があります。
自力で切り拓く「教育実習」への道
最大の難所は教育実習です。通学制の大学とは異なり、実習校への内諾交渉はすべて自分で行わなければなりません。
- 母校や近隣校へのアポ取り:1年以上前から、自ら高校へ電話をかけ、受け入れをお願いする精神的タフさが必要です。
- 分厚い「しおり」の解読:数十ページに及ぶ実習の手引きを読み込み、麻疹(はしか)の抗体証明、事前講習の受講、単位充足状況など、一つでも欠ければ「1年先送り」になる緻密な管理能力が求められます。
大学事務局との連絡の難しさ
大学のポータルサイトを通じた事務局とのやり取りも、一筋縄ではいきません。
- ルールの変動への対応:学習指導要領の改訂に伴い、テキストや設題が急に変わることがあります。旧課程から新課程への移行期などは、大学側の指示に矛盾を感じることも少なくありません。
- 粘り強い交渉:システムの不備や、自分の状況(仕事との兼ね合い)を論理的に説明し、納得のいく回答を引き出すコミュニケーション能力が不可欠です。
逃げ場のない「学力(論理的思考力)」
事務手続きを完璧にこなしても、肝心の「学力」が伴わなければ一歩も前に進めません。ここで言う学力とは、単なる暗記力ではなく、「アカデミックな論理を構築する力」です。
「書ける」プライドが通用しない世界
仕事として文章を扱ってきた人間であっても、大学のレポートは全く別物です。
- 論理の破綻は「即アウト」:どれだけ情熱的に書いても、論理構成が甘ければ容赦なく不合格(D判定)が下ります。コピーライティングの「心に刺さる言葉」ではなく、学術的な「ぐうの音も出ない論理」が求められます。
- 文字数という名の「思考の縛り」:「字数厳守」というルールがある場合、それは単なる制限ではなく、「この分量で論理を尽くせ」という知的な筋力トレーニングです。1文字の無駄も許されない、極限の文章作成能力が試されます。
事務と学力が交差する「スクーリング」の過酷さ
スクーリング(対面・オンライン授業)は、この2つの壁が同時に襲ってくる場です。
仕事を調整し、旅費を払い、全力で準備して臨んだ授業でも、内容が期待とズレていることがあります。「事前課題で教わっていない操作がメインのテストだった」「指導内容が極めて短く、理解している前提で進められた」といった理不尽な状況に直面することもあります。
こうした時、「自分の技術的な正当性」と「大学側のカリキュラムの不備」を冷静に切り分け、論理的に進言する力が必要になります。旅費と時間を無駄にしないためには、その場の「違和感」すらも論理の材料にするタフさが必要なのです。
挫折せずに完走するための「教訓」
- 「事務のプロ」であれ:学内のお知らせを毎日チェックし、自分専用のスプレッドシートで期限を管理すること。「知らなかった」は卒業を遠ざけるだけです。
- 「論理の鬼」であれ:自分の主観を捨て、指定されたルールの中で最高密度の論理を組み立てる。不合格になったら「自分の論理のどこに欠陥があったか」を客観的に分析してください。
- 「孤独」を味方にする:誰にも相談できない環境は、裏を返せば「徹底的に自分と向き合い、思考を研ぎ澄ますチャンス」です。その苦労こそが、教壇に立った時の言葉の重みになります。
結びに代えて
通信制大学で教員免許を取得する過程は、単なる資格取得の勉強ではありません。「理不尽な事務手続きをさばきながら、高度な論理を構築し続ける」という、社会人として最も高度なスキルの証明でもあります。
もし今、あなたが単位の山を前に立ち止まっているなら、それはあなたが「教える側」に回るために必要な、避けては通れない知的な通過儀礼です。ここの通信制大学の教職課程は全国の通信制の中でも相対的に難しかったのかもしれませんが、教育学を通信制の中でもここまで本気で学べた場所であるとも言えます。手元に届く免許状には、あなたの「事務処理能力」と「学力」のすべてが刻まれており大きな自信となりました。
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